自賠責保険を受け取るような事故に遭遇した場合、自賠責保険の請求権が消滅する前に手続きを行う必要があります。そのため、時効を迎えて請求権が消滅しないよう、請求期間を把握しておくことが重要です。
そこで今回は、自賠責保険の請求期限について取り上げながら、請求方法の種類、消滅時効の期間、時効の中断方法など詳しく解説していきます。
人身事故の場合、自賠責保険の請求を行うことになります。請求方法は、「加害者請求」と「被害者請求」に分かれており、それぞれ請求できる期限は決まっているものです。そもそも、加害者請求と被害者請求とはどのような意味なのか、以下にまとめました。
「加害者請求」⇒加害者が加入している自賠責保険に請求する方法
加害者が加害者請求を行うためには、被害者に対してすでに賠償金を支払っていることが条件となります。
「被害者請求」⇒被害者が加害者の自賠責保険に請求する方法
何らかの事情で加害者請求ができない場合、被害者が自分で加害者の自賠責保険に対し請求することができます。
つまり、自賠責保険の請求は、加害者だけではなく被害者も行うことができるということです。
加害者が任意保険に加入しているときは、任意保険の保険会社が自賠責保険と任意保険の一括扱いを行うケースが大半です。そのため、加害者が賠償金を立て替えて被害者に支払うケースはほぼありません。
加害者が任意保険に加入していなかったり、加入していたとしても被害者の過失が大きい場合は被害者請求を行うケースが目立ちます。
自賠責保険における加害者請求の請求期限(時効)は、以下の通りとなります。
請求区分 | いつから | いつまでに (時効完成日) |
---|---|---|
傷害 後遺障害 死亡 |
損賠賠償金を支払ってから |
損賠賠償金を支払ってから3年以内 |
参照:国土交通省「自動車総合安全情報」
※平成22年3月31日以前に発生した事故の場合、請求期間は2年以内
3年で時効を迎えることになり、時効を越えると保険金を請求する権利が消滅してしまいます。万が一、何らかの事情で時効の中断を希望する場合は、自賠責保険の加入先(損害保険会社や共済組合)に相談してください。
なお、あくまでも一般的なお話となりますが、加害者が自賠責保険の請求を行う際、時効を迎えることはほぼありません。なぜなら、原則として加害者が被害者に賠償金を支払わないと、加害者請求を利用することができないからです。
1日も早く賠償金を回収したいという思いから、時効を過ぎるケースは非常に少ないのが現状だといえます。
加害者請求の流れを簡単に解説します。
①先の述べたとおり、加害者請求をする前に、被害者に対して賠償金を支払う必要があります。ただし、任意保険に加入している場合は、任意保険の保険会社が「自賠責・任意保険」の保険金を一括で支払うこともあるため、事前に保険会社に相談をしてください。
なぜ加害者が先に賠償金を支払う必要があるのかというと、自賠責保険は交通事故の被害者を救済する目的で作られた保険だからです。そのため、加害者が先に賠償金を支払うのが前提となっています。
任意保険に加入していない方は、自賠責の保険会社(共済組合)から「保険金請求書類の一式」を貰ってきます。
②書類に関しては、加害者と被害者の署名が必要です。
③賠償金を先に支払うことが難しい場合、被害者に依頼して被害者請求の手続きを行ってもらいます。話し合いがこじれるケースがあるため、丁重にお願いしてください。
④事故や損害の調査
保険会社(共済組合)にて書類内容を確認し、損害保険料率算出機構へ書類を提出します。損害保険料率算出機構とは、自賠責保険の損害調査や、任意保険の保険料率を算出する団体のことです。
⑤損害調査
損害保険料率算出機構が損害の内容を調査します。
⑥損害報告
損害保険料率算出機構が保険会社(共済組合)に調査結果を報告します。
⑦保険金の支払い
保険会社(共済組合)が支払い額を決定し、請求者に対して自賠責保険金を支払います。
被害者請求とは、何らかの事情で加害者が賠償金を支払うことができない場合に、被害者が加害者の自賠責保険会社に対して損害賠償金の請求ができる方法のことです。
たとえば、加害者が金銭的な問題から賠償金の支払いができなかったり、加害者が任意保険に加入しておらず一括扱いを利用できない場合などが該当します。
加害者請求と同様、被害者請求にも時効が設けられているため、詳しく見ていくことにしましょう。
被害者が請求する際、加害者からの承諾は不要です。ただし、加害者が加入している自賠責保険の「保険会社名(共済組合)」「証明書番号」が必要となります。
また、すでに加害者から賠償金を受け取っている場合、もしくは当面の治療費に充てるために「仮渡金」を受け取っている場合は、その分が差し引かれて残額が支払われます。
請求区分 | いつから | いつまでに (時効完成日) |
---|---|---|
傷害 | 事故発生 |
事故が発生してから3年以内 |
後遺障害 | 症状固定 |
症状が発生してから3年以内 |
死亡 | 死亡 |
死亡してから3年以内 |
参照:国土交通省「自動車総合安全情報」
※平成22年3月31日以前に発生した事故の場合、請求期間は2年以内
加害者請求の場合と同様、3年で時効を迎えることになります。示談交渉が長引くなど、時効を過ぎる可能性が高いときは、時効の中断手続きを行ってください。詳細は、この後の項で詳しく解説します。
なお、上図の症状固定とは、症状が安定して、それ以上治療を行っても効果が期待できなくなった時のことを指しており、医師が判断しています。
ただし、症状の固定が必ずしも時効の起算点として採用されるわけではないようです。過去の判例では、医師が判断した症状固定日よりも前に、症状が固定したと判断されたケースがあります。
そのため、交通事故により後遺障害を負った場合は、時効を迎えるよりも前に時効の中断手続きを行うようにしましょう。
基本的には、加害者請求の流れと同様です。その上で、押さえておきたいポイントがあります。詳細を以下にまとめましたので、参考にしてください。
すぐに賠償金を受け取ることができないと分かった時点で、当面の治療費に充てるために仮渡金制度を利用しましょう。仮渡金の概要は以下のとおりです。
示談交渉が難航し過失割合が決まらない場合など、賠償金をすぐに受け取ることができないケースがあります。その際、仮渡金制度を利用して仮渡金を受け取ることが可能です。加害者が加入している保険会社(共済組合)に対して、請求することになります。
死亡時:290万円
障害の場合は障害状況による:5万円、20万円、40万円のいずれか
なお、仮渡金にも3年の時効が設けられています。3年まで待つケースはほとんどありませんが、いずれにしろ早めに請求することをおすすめします。
これまでにも、何度か「時効中断」について触れてきました。この項では、更に詳しくみていくことにします。
たとえば、以下のようなケースに該当する場合、早めに「時効中断」の手続きを行ってください。
など
上記のようなケースに該当するときは、「時効中断申請書」に必要事項を記入し、加害者の自賠責保険の保険会社に提出する必要があります。
「時効中断申請書」に関しては、加害者の自賠責保険会社に連絡をすることで、すぐに送付してもらうことが可能です。承認となった日から、2年の時効期間延長となります。
ただし、1つ注意点があります。加害者が自賠責保険と任意保険の「一括扱い」をしている場合、まずは一括扱いを解除しなければなりません。また、一括扱いをしている最中、自賠責保険への被害者請求件の時効は進行しないケースがあるようです。
つまり、事故日または症状固定日から3年以上経過していても、被害者請求権の時効が消滅していないことがあるということになります。
このあたりのお話は少々複雑になるため、時効を迎えるよりも前に「一括扱い」となっているかを確認し、もしも「一括扱い」となっている場合は解除してもらうよう話を進めてください。
これまで時効の中断について解説しましたが、政府の保障事業を利用する場合は、加害者請求や被害者請求とは異なり時効の中断ができません。政府の保障事業とは、自動車損害賠償保障法に基づいて運用されている制度のことを指します。
ひき逃げ事故、無保険事故の被害者が利用できる制度で、健康保険、労災保険等の社会保険の給付、加害者からの支払いによっても傷害が残る場合、救済措置として一定額の範囲内で国が損害を補填してくれます。
参考までに、政府保障事業への請求が可能な期間を以下にまとめました。参考にしてください。
請求区分 | いつから | いつまでに (時効完成日) |
---|---|---|
傷害 | 治療を終えた日 |
事故発生日から3年以内 |
後遺障害 | 症状固定 |
症状固定日から3年以内 |
死亡 | 死亡日 |
死亡日から3年以内 |
請求区分 | いつから | いつまでに (時効完成日) |
---|---|---|
傷害 | 治療を終えた日 |
事故発生日から2年以内 |
後遺障害 | 症状固定 |
症状固定日から2年以内 |
死亡 | 死亡日 |
死亡日から2年以内 |
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